Sotto

Vol.102

ネイチャーガイド

菊地ひとみさん

つながりと旅と

想いをつなぐ

メガネをかけてるのは視力矯正のためではなくて、鳥をすばやく見つけるためなんです。三宅島はバードアイランドとして有名で、シーズンにはたくさんのバードウォッチャーが来島します。日中、人とすれ違うことはあまりないけれど、自然のあるところに行くと、人に会えますよ(笑)。

三宅島は、すべてが火山とつながっています。火山や鳥について勉強すると、命の循環が目に見えてわかります。自分が暮らしている火山島の噴火のメカニズムを正しく知ることが、生き延びる術になる。先人たちからの口伝えも生かされていると感じます。島の人たちは、これまで幾度もの噴火を乗り越えているだけあって、すごい覚悟と、島への強い愛がある。わたしも、その想いをつないでいきたいです。

50歳間近になって、自分の生きかたを考えることが増えました。神さまから与えられた身体を大切にしながら、島の自然を保全して次世代につなぐという使命に全力で取り組みたい。いまはそれに尽きます。

 

ネイチャーガイドとして三宅の自然とそこに暮らす人の想いをつないでゆく

 

離れていても、見えなくても

2年前に祖母が亡くなりました。100歳の大往生でした。一度も病気にならず、入院もせず、最後まで元気でね。わたしと弟と、ふたりでやんちゃだったころは、「アンタら、ほんとに悪い子やから、灸(やいと)すえたろか!」ってよく怒られた(笑)。チャキチャキのたくましいおばあちゃんでした。地元の奈良へ帰るたびに顔を見に行っていたから、悔いはありません。形が無くなるのはすごくさみしいけれど、おばあちゃんは、「離れて姿は見えなくても、いつもひとみちゃんのことを想っているよ」と言ってくれていました。いまもどこかでわたしを見てくれている、そう思えば、生きているときと変わりません。

 

 

ここでは地域のつながりが濃いぶん、人の死が近いです。火葬場がなかった時代は各集落の磯場で遺体を焼いて、地域の人たちが夜通し火を守りながら、お酒を飲んで故人を弔ったそうです。亡くなった人のいいことも悪いことも、みんなでワイワイ言いながら。そういう故人との向き合いかたはすてきだなと思います。わたしが死んだときには、みんなから逸話が出てきて盛り上がってもらえるような人生にしたいですね。

 

旅はライフスタイル

最近は、コロナの影響で海外に行けなくなった人が国内の島旅にシフトしていて、この島にもたくさんの人がやってきます。中には、これまでに180か国訪れたというご婦人もいました。そういう人の話を聴くのはワクワクします。先日は、北海道からのツアーにひとりで参加していたおばあちゃんが、「わたし、92歳なのよ」って。その年齢まで健康でいて、自分の足で歩いて旅ができる。それはすごく幸せなことです。「いつかまた三宅島で会える日をたのしみに」と言って帰っていきました。わたしも、こういうおばあちゃんになりたい!

 

年齢も性別も国籍も超えて。旅はライフスタイル(1996年、オーストラリア)

 

旅はわたしのライフスタイルです。いまはここで最期まで過ごすつもりで暮らしていますが、生きものと自然が好きというわたし自身の根本が変わらなければ、極端に言えば、どこでも暮らしていけると思っています。わたしにとっては、年齢も性別もこえた、人としての付き合いがとても大事。そういう付き合いができる友人が全国にいるので、いつか一人ひとり訪ねていきたいな。

 

 

(聞き手=夏目真紀子、撮影=平野有希)

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