Sotto

Vol.31

ギャラリーオーナー

引田かおりさん

グーより、パー。

小さな奇跡が重なって

結婚をして、仕事を離れて、子どもが生まれて、家族のために懸命に生きてきました。でも、いつもどこかに、わたしは主婦に向いていないかもしれないと思うことがあって。子どもたちが小学校にあがるときに、絵本屋さんでアルバイトをはじめました。その次は、夫が仕事を辞めるタイミング。わたしが、「パン屋さんをやりたい」って言って、45歳のときにいまのお店をはじめました。

この土地との出会いも、そのあとも、小さな奇跡がたくさん重なりました。お店をはじめてから、目の前の空き地が公園になったらいいなあと思っていて。種を蒔いて花が咲くころに子どもたちが遊ぶ姿を撮影して、市役所に企画書を提出しました。すると、ある日市役所から連絡がきて、「公園になります」って! 市が緑化に力を入れているとか、いろんな条件が重なって想いが叶いました。どうせダメだろうなんて思わずに、みんなが幸せになれる方向でアクションを起こす。勢いのわたしと実務の夫。わたしたちは最強のコンビだね、なんて言いながらこれまでやってきました。

 

ギャラリーのガラス窓の向こうに小さな公園

 

空気も人も循環している

米国の牧師のラインホールド・ニーバーの言葉に、「変えられることを変える勇気、変えられないことを受け入れる寛容さ、それがどちらであるか見極める叡智をわたしに与えてください」という祈りがあります。日々の生活で感じることですし、生きる上でわたしの大事な指針になっています。あの世とこの世は別世界ではなく、つながっている。そこにはもちろん邪気を含めいろんな気持ちがあるから、ちゃんと結界をはらなくてはいけないと思っています。その具体的な方法が「掃除と整理整頓」。玄関は毎日きれいに拭きあげると気持ちがいいし、整理整頓することで心の中のモヤモヤが明確になる。自分の無力さに絶望するときでも、自分にはまだできることがある、と思えるんです。

それから空気が澱まないようにしています。持ち物も循環させるのが好き。もったいないからではなく、わたしよりももっと似合う人がいる、それを必要としている人がほかにいる、と思ってわたしは手放すようにしています。そうすると自分がほしかった物が現れたりするの(笑)。グーよりパーです。

 

 

受け取ったものは分け合いたい

すてきなアーティストさんを見つけたら声を大にして、みんなに知ってもらいたい。おいしいものに出会ったら、だれかに教えてあげたい。受け取った物を握りしめるのではなく、みんなで分けたい。でも、受け取った側がどう感じたか、ほんとうによかったかどうかは相手次第。悩みを聞いてアドバイスをすることもあるけれど、それからその人がどうなったかは気にしすぎない。人を想うエネルギーって実はすごく重たいものなんです。だからいまは、「わたしも大丈夫、あなたも大丈夫」。そう思って暮らしています。

ギャラリーではアーティストさんの想いを100%実現したい。どうかこの展らん会がうまくいきますように、そんな祈りにも似た気持ちがあります。私利私欲ではなく、アーティストさんや、パンを買ってくださるお客さま一人ひとりに対する気持ちを大事にしたい。わたしとご縁ができた方々が、幸せな方向を向いたり、少しでも気づきがあったり、そんなきっかけになったらいい。それが、わたしがここにいる意味なのかなと思っています。

 

(聞き手=加納沙樹、撮影=平野有希)

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