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Vol.24

ダイバーシティ・アテンダント協会

内山早苗さん

おもしろくて、有能で、ちょい悪オヤジな車いすのふたりの友

仕事を通して社会とつながる

小さいころから本を読むことが大好きで、本に関わる仕事しかできないと思っていました。出版社に就職した当時は、女性が第一線で活躍する時代ではなかったし、ずいぶん余計なことも言われたりもしました。それでも、やりたい仕事だったから一生懸命でした。出産を機に一度仕事を離れましたが、心にぽっかり穴が開いたような感じが募ってきて。社会とのつながりがない、というのがとても寂しかったのです。毎日、新聞の求人広告を見ていたある日、外部編集者募集の小さな広告を見つけました。ダメ元で試験を受けたら、なんとか通過したのです。初めての仕事がきて、机の上にゲラを広げて、赤ペンを持ったとき、一気に全身に血が流れていくのがわかりました。だれでも社会とつながることが大切。障がい者の社会活動に目を向けるようになったのはそれからしばらく経ってのことです。

 

仕事を再開したころ(1982年)

 

信頼できる相棒に出会って

障がいのある人たちを理解する、ある大きな研修イベントの仕事で出会ったのが岡村道夫さん。彼は28歳のときに、工事現場の事故が原因で車いす生活になりました。明るくて、元気で、お酒が大好き、いまでいう「ちょい悪オヤジ」でした。障がいのある人も当たり前に社会参加でき、自分の能力を発揮できる社会にしたい! という私の願いを、具体的に車いす当事者として教えてくれたのが岡村さんです。

忘れられない出来事があります。一緒に講師をしていた企業向けのダイバーシティ研修の初日の帰り道に、私は脚を骨折してしまいました。研修を休むなんていう発想はまったくなかったので、岡村さんの車で送ってもらって、なんとか10日間の研修を乗り切りました。岡村さんは、自身が車いすなのに、座席が高いワゴン車に乗っていて、運転席にヒョイっと飛び乗る。わたしが松葉杖で、「乗れない……」と言うと、「オレが乗ってんだよ!」と叱られました。障がいのある人たちはいつも不便な状況の中、工夫と努力で生活をしているのだから、これくらいで弱音を吐いてはいられない。岡村さんからはいろんなことを教わりました。ほんとうに信頼できる相棒でした。

 

ユニバーサルキャンプの参加者にレクチャーする岡村道夫さん

 

ユニバーサルデザインは、美しくなければいけない

わたしの目指すところはノーマライゼーション(共生社会)。この仕事をはじめてから感じたことは、企業側の理解がまだまだ足りていないということ。企業の担当者に話を聞いてみると、彼らには障がい者の接点がないことがわかりました。そこで、2005年から障がいのない人もある人もともに時間を過ごす場をつくり、本来のユニバーサルデザイン、ダイバーシティを理解してほしいと、八丈島で「ユニバーサルキャンプ」をはじめました。

このキャンプに初回から参加してくれた友だちに、やはり車いす使用者の椋本敏行さんがいました。彼もお酒好きで、明るい、ちょい悪オヤジ。キャンプでは、岡村さんと椋本さんが多くの人に囲まれて夜中まで飲んで盛り上がっていた姿が忘れられません。

椋本さんは福岡でデザインリーグというデザイナーグループを率いていて、彼の親友が福岡市内を走る地下鉄七隈線のデザインに携わる仕事をしていました。七隈線は車両とホームの間に隙間がないようにできていて、優れたユニバーサルデザインの駅です。駅名の看板には各駅の特徴を表す絵柄が描かれていて、子どもや海外の人にも目印になるように工夫されています。なによりいいのは、デザインがとてもおしゃれ。ユニバーサルデザインだからって、ダサかったり、使い心地が悪かったりしたらダメ。美しくなければいけないんです。福岡に行くたび、椋本さんはそんなユニバーサルデザインの本質を教えてくれました。

 

第1回ユニバーサルキャンプin八丈島(2005年)

 

障がい者仲間からは教わることだらけ

障がいのある人は、自分たちよりできることが少ない、かわいそう、と思われているかもしれない。けれど、かわいそうなんて思うことはとっても失礼なこと。実際、障がいのある人たちには、おもしろくて、有能で、何でもできる人たちが大勢います。お酒も遊びも大好きな人が多いし、わたしはスマホの使い方を全盲の人から教わったくらいです。プログラミングの仕事は特に、全盲の人がたくさん活躍しています。彼らを見ていると、そう簡単に「あれができない」「これができない」なんて絶対に言えません。みんな対等で尊厳のある一人の大切な存在なんです。

ふたりは昨年相次いで天国に旅立ちました。残された側は悲しいですが、今ふたりはもっと自由な世界で、のびのびと過ごしていると思います。

 

 (聞き手=加納沙樹、撮影=平野有希)

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