Sotto

Vol.21

トカノハート&ハート

松井麻律さん

もっと気軽に誰かに頼れるように

感情表現が苦手だった

幼いころから男勝りな性格で、人との距離感をつかむのが苦手。対人関係が得意なほうではなかった。双子の妹はわたしとは正反対で女の子っぽい可愛らしい性格。家では妹とよく取っ組み合いのケンカをしたのを覚えています。

将来は映画監督になりたい。そう思って19歳のときに上京して、映画の専門学校に通いました。その後は制作会社でアシスタントディレクターとして6年間勤務。ドキュメンタリー志望でしたが、バラエティ番組の担当がほとんど。それでも無我夢中で働いていましたね。もう少しでディレクターになれるところまできていたけど、心と体に限界を感じてしまった。そのタイミングで心機一転、違う道に進むことを決めました。

 

まったく性格の異なる双子の姉妹はともに成長した

 

 

苦しい経験を乗り越えて、前向きな気持ちに

上京してからは妹と離れて暮らしていましたが、そのころ妹は摂食障害やうつ病に悩んでいた時期がありました。何か力になりたくて、妹を東京に呼んで、わたしの家で一緒に暮らしました。わたしはちょうど女性向けの体操教室のカーブスで働きはじめたころ。人に言いづらい家庭の悩みを抱えていた女性たちが、体を動かすことで前向きになっていく姿を見ていました。妹も体を動かすことで気持ちが変わるのではないか。そう思って、妹をカーブスに誘いました。その後、妹は心の健康を回復してインストラクターになりました。いまはママさんトレーナーとしていきいきと働いています。そんな妹をとっても尊敬しています。

振り返ると、困ったときや苦しいときに、誰かに相談すればよかった。家族のことになると、どうしても抱えすぎてしまう。自分がなんとかしなくちゃいけない。そう思って、無理をしてしまう。もっとうまくできたらいいのに……と、わたしも自分自身を責めてしまいそうになることがありました。はたから見れば順風満帆に見える人でも、人知れず無理をしていたり、家庭に悩みを抱えていることがあります。そんな人をたくさん見てきたから、わたしは人を外見で判断したくない。無理をしないで、もっと気軽に誰かに頼れる環境があればいいのにな、と思います。

 

遺品整理の仕事を通して心の交流がはじまる

 

誰かの役に立つ仕事がしたい

29歳のときにおばあちゃんを亡くして、はじめてお葬式に行きました。おじいちゃんはおばあちゃんを亡くしたショックがおおきすぎて、葬儀の最後には腰を抜かして立ち上がれなかった。それからおじいちゃんは認知症が進んでしまって、10か月後におばあちゃんを追うように亡くなりました。最後のほうはセルフネグレクト状態で部屋は荒れ放題。いろんな臭いがしていました。母と一緒に遺品整理をしていたときに、いろんな感情が込み上げてきて、いたたまれない気持ちになりました。

この経験をきっかけに、生前整理・遺品整理の会社をはじめました。お客さんと一緒に片付けをしていると「こんなになってしまってごめんなさい」って言われることが多い。でも、がんばれって片付けている自分自身を褒めてほしい。部屋がきれいになると気持ちも前向きになって表情も変わります。わたし自身、苦しい経験もたくさんしたけど、いまはその経験が誰かの役に立っていると信じています。「松井さんのおかげで、片付けができました」。その言葉がなにより嬉しいです。

 

(聞き手=加納沙樹、撮影=平野有希)

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