Sotto

Vol.3

フラワーデザイナー

舘美奈子さん

自然の風をいつも近くで感じていたい

季節を楽しみながら生きる

18歳のときに旅行でドライフラワーのアトリエを訪れました。そこで花の世界に魅了されて、花の世界に入りました。アトリエがあるのは長野県の安曇野。自然が美しいところで、以来、毎月通うようになりました。松ぼっくりを拾ったり、野花を摘んだりするのが新鮮で。先生は庭のような森のような家に住んでいて、自然の素材を活かした作品をつくっている人でした。社会人になってからもフラワーアレンジメントスクールに通っていましたが、24歳のときに、オランダ留学の道を選びました。

オランダでは金曜日になると自転車の後ろに花束を乗せて家に帰る姿をよく見ます。それぞれの家の庭には素敵な草花が植えられていて、「どうぞ、みてください」というような開放的な国です。外から見えるところに素敵なものを飾ったり、季節をごとに部屋の模様替えをしたり。当時の仲間たちとは現在でも一緒に仕事をすることがあります。

 

 

なんでもバランスが大事だよ

オランダ留学時代の私の先生、テオ・ブールマ。とにかく花への愛が強い人でした。花のことを語りだしたら止まらない、そんな人です。学校は炭鉱をイメージしたレンガの壁が印象的で、入り口にはバーカウンターがありました。夕方になるとテオの奥さんが、「なにか飲む?」って。楽しく飲みながら話したり、テオの娘さんたちがつくったごはんを食べたり。温かいスープが懐かしいな。

花の授業ではテオがいつも「バランスが大事だよ」って言っていたのを覚えています。花・色・器・インテリア。そして人生においてもバランスが大事。私にとって、ふとしたときに思い出して、基本に立ち返ろうと思う言葉です。

 

テオと娘のジャクリーンと

 

やっぱりオランダが好き

日本で暮らしていても、何気なく「あ、この風、オランダっぽい」って思うときがあります。オランダでのことはよく思い出します。また行きたいですね。どこの国に行っても、それぞれ魅力は感じるけど、やっぱりオランダが一番好きかな。はじめて訪れたときから、居心地がよくて、ピタッと合うような感覚。とにかく明るい人が多くて、愛国心の強い国でした。

女王さまの日になると国中がオレンジ色に染まります。トラムにオレンジ色の花を装飾して走らせるのに、何日もかけてデコレーションしたこともありました。テオもオレンジ色の服を着ていました。お祝いごと、サッカーの試合の日には、おじさんも若者もみんながオレンジを身につけて。もちろん、わたしもそのときはオレンジ色の服を着ます。

 

デコレーションしたトラム

 

大切な人を想って花を飾る

テオは日本にも何度か来てくれました。一緒にランドマークの装飾をしたり、バレンタインのイベントを担当したり。テオの孫のマイクは日本の保育園に通っていたこともあって、おにぎりが大好きでした。テオの娘のジャクリーンもマイクも今でも親交があります。大切な人って、遠くにいても、今はもういなくても、その人を想って「この花を飾ろうかな」って思える人。想う度合いは変わるかもしれないけど、ふと思い出すことができる存在ですね。

葉が散るから、芽が出てくる。命のサイクルは花も人も同じ。自分も自然の中のひとつなんだと思います。わが家の窓はオランダのように、いつもカーテンを開けています。自然の風をいつも近くで感じていたいから。

(聞き手=加納沙樹、撮影=平野有希)

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