Sotto

Vol.4

川本商店

川本雅由さん

そこにいないからといって、終わりではない。

言葉がないからこそ通じるもの

祖父は川本商店の2代目でした。私の記憶に残っているおじいちゃんは、マッサージ椅子に日がな一日座っている姿。そっと触れると静電気がパチっとしたのをよく覚えています。

祖父は北九州から東京の赤坂に出てきて、川本商店を構え、代理店を広げるためにバイクで全国を回ったそうです。昭和の時代の人情味溢れる社長の姿ですね。私が生まれる前に脳梗塞で倒れて以来、言葉をうまく発することができなくなりました。それでも祖父の「人をもてなすことが好き」な人柄はよく伝わってきました。

杖をつきながらも、美味しいお店に連れて行ってもらったり、旅行へ行ったり。言葉を交わすことはほとんどありませんでしたが、それでも祖父がもっと元気だったら……、と考えたことはないですね。言葉がないからこそ通じるものがある。祖父がいるからこそ、家族のあたたかい時間があったんだと思います。私にとって祖父はとても偉大な存在です。

 

家族旅行のスナップ(1997年、熱海にて)

 

家族のように大切な仲間たち

学生時代の大切な仲間の一人が突然この世を去りました。持病があったのですが、ある日、たまたま薬を飲み忘れてしまった。彼はそのまま会えない人になりました。その日に彼と一緒に過ごしていた友人は今でも、「自分が薬のことを気づいてあげられたら」と、悔いています。彼のことを思い出しては時折涙する友人もいます。「昔のことだから。もう気にしなくていいんだよ」と、声をかける人もいますが、私は、悔しい気持ちや悲しい気持ちは決して悪いものではないと思っています。

自分が経験したからこそわかる感情。それを隠す必要はないし、忘れる必要もない。当時の仲間は今でも仲が良くて、家族ぐるみの付き合いをしています。毎年1回は彼の母親を交えて集まって、お酒を飲んだりして。同じ悲しみを経験した仲間だからこそ、お互いの深い話しができる。先日、別の友人の祖父の葬儀をお手伝いしたこともありました。仕事でどうしても帰れなかった友人の代わりに私が棺を運んだんです。私の仕事柄、人の生き死にを考える機会が多いこともあって、私だからこそできること、伝えられる言葉があると思っています。

 

誰かを想うことは、心の余裕と成長につながる

私自身は話すのが得意なほうではありませんが、下手でもいいから自分の想いを伝えていきたいと常に思っています。小さいころ、祖父が言葉にできない想いを伝えてくれていたからかもしれません。想いはきっと自分の姿となって現れるものだと思うから。だからこそ、常に誠実でありたい。「川本くんは真面目すぎるよ」なんて、よく言われるんですけど、この性格はなかなか変わらないですね(笑)。今まで、返しても、返しても、返しきれないくらいたくさんのものをもらってきました。だからこんどは恩返しをする番だと思っています。

その人が生きていても、あるいは、この世にいなくても、私にとって誰かを大切に想う気持ちはあったかいものです。誰かのことを想うには、自分自身に余裕がないとできない。だからこそ、人を想うことは、心の余裕や成長につながると思う。亡くなったからといって、そこで終わりというわけではありません。今の自分があるのは、みんなのおかげですから。

(聞き手=加納沙樹、撮影=平野有希)

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