Sotto

Vol.42

京都山本製革店

山本素士さん

ものをつくることは、誰かの人生に関わること。

好きなことで誰かの力になりたい

京都の山科で生まれ育ちました。大学を出てからは技師として働いていましたが、趣味ではじめたバイオリンが楽しくって。大人になってからバイオリンを弾くのはなかなかたいへんですね(笑)。奏者として仕事にするのはむずかしいけれど、それでもバイオリンが好きだからと、弾くかわりに、つくる仕事にたどり着きました。当時、バイオリン製作を教えてくれる場所はほとんどなかったので、それなら僕みたいにバイオリンをつくりたい人がほかにもいるかもしれない。そういう人の力になりたいと思って、バイオリン工房と教室をはじめました。

この場所で、かつて僕の祖父が「山本青果店(やまもとせいかてん」を営んでいたんです。そのときの店の名前にちなんで「京都山本製革店(きょうとやまもとせいかてん)」。バイオリンと革製品の工房です。バイオリンはニスを塗ることで300年以上も受け継ぐことができる。革製品にもバイオリンのニスを用いることで、もっと長く大切に使ってもらえるのではないかと思って製作しています。

 

バイオリンと革製品、どちらも長く使うための工夫が凝らされる

 

時間をかけていっしょにつくる

バイオリン製作は一枚の板を削るところからはじめて、完成までは最低でも3年、長い人だと10年かかります。途中で辞めてしまう方もいるくらい根気のいる作業です。以前、音楽大学の学生さんが、卒業制作でバイオリンをつくりたいと毎週東京からここまで通っていたことがありました。製作過程を記録に残しながら作業を進めていたんですけれど、最初のころの板を削る作業で、少し目を離していたら、強く削りすぎて一部分が貫通してしまった。一瞬顔が真っ青になりましたよ。それからふたりで必死になって補修して、なんとか予定通りの段階まで戻ることができました。それからはいつも横で目を凝らして見守るようになりました(笑)。

何年もかかってバイオリンが出来上がって、最後に弦を張るんです。生徒さんがはじめて音を出す瞬間はとても嬉しい瞬間です。それから何年も弾き込んで、メンテナンスを繰り返していくうちに、楽器も成長していきます。いつか自分の子どもたちに楽器を引き継いで、長く楽器が生き続けてくれたら、それもまた嬉しいですね。生徒さんたちはバイオリンが完成してからもときどき連絡をくれます。送ってくれた写真は工房に大切に飾っています。

 

2019年にオープンの京町屋を改装した店舗(京都市東山区)

 

人生の一部に関われること

革製品は修理やリメイクもしています。長年使った鞄を小物にリメイクする方もいますが、一からフルオーダーの製品をご注文いただく方もいます。以前、「私の人生の最後の鞄をつくってほしい」とオーダーしてくださった方がいました。旅行が好きで、旅に持っていける鞄をと、ポケットの数や色、形まで、なんども打ち合わせをして完成しました。恋人にプレゼントする財布をつくりたい、と教室に通った方もいました。大切な人のために時間をかけて、想いを込めて、ひと針ひと針入れる作業は一生忘れられない経験になったと思います。

バイオリン製作も革製品も、ひとりの人と深く長くお付き合いをすることが多い。誰かの大切なものをつくること、その過程に立ち会うことは、その人の人生に関わることです。何か辛いことがあったときには、工房での日々を思い出してもらえたら嬉しいなと思います。

 

(聞き手=加納沙樹、撮影=平野有希)

 

Share

So storyでは
読者のみなさまのご意見、ご感想をお待ちしております。