Sotto

Vol.84

外国人女性の会パルヨン

ニーナ・ハッカライネンさん

だれかを想うことは、自分を想うこと。

生きているあいだは

いま大津に住んでいます。琵琶湖があって、自然が豊かで、フィンランドによく似ています。人が少ないところも同じです。フィンランドは、男女平等が進んでいて、若い女性が子育てしながら総理大臣になれるような国。そういうところはすごくいいし、わたしも好きです。それなのに、なぜ日本に? フィンランドと日本、ちがう文化の中で生きていくのは発見が多くて刺激的だからです。たとえば、日本人は万が一のために、前もって謝りますよね。ヨーロッパ人は悪いことをしたから謝る。こんなにも考えかたがちがうのか、これはすごい!って。そうやって自分の視野が広がる瞬間がプライスレスだし、日本にいることのおもしろさかな。

日本に興味をもったきっかけは仏教です。学生のときに病院でアルバイトをしていたのですが、いくら医師が助けても、人は死んでいく。なぜ人は死ぬのだろうかと。わたしはキリスト教徒ですが、キリスト教の教義では死ぬことへの説明がものたりなかった。でも、日本に来て、仏教を学んでも、やっぱりまだわかりません(笑)。亡くなってから輪廻転生があるかもしれないし、ないかもしれない。あるような気がするけれど、絶対そうであるかどうかわからない。だけど、この地球に生きているあいだは、何か役に立つことをしたほうがいい。そう思っています。

 

フィンランドと日本。似ているところ、ぜんぜん違っているところ、それがおもしろい。

 

だれにも優しい社会に

先日、コロナ禍でアルバイトを失って、学費を払えずに退学を迫られた留学生がいました。日本では留学生でも申請できる給付金が用意されていたから、それを紹介して申請し、彼女は勉強を続けられた。彼女の人生が変わったのです。そんなときに感じる幸せや喜びが、わたしのモチベーションになっています。

日本に住んでいる外国人女性をサポートする団体「外国人女性の会パルヨン」の活動をはじめて15年になりました。いま全国に50人くらいのボランティアがいて、日本で生活する外国人と電話やチャットで会話したり、いっしょに役所へ行ったり、翻訳したり、いろいろなサポートをしています。直接会ったことがない人もいますが、だれかを助けたいという想いでつながっているのですよ。このあいだ、そのなかのひとりが趣味でつくっているオーガニック野菜を送ってくれました。すごく元気な野菜をいーっぱい。手づくりの梅ジャムも入っていて、これがめっちゃおいしかった! そんな周りの人の優しさに、わたしも支えられています。

日本は少しずつ、外国人にとっても住みやすくなっています。多文化共生社会、だれにも優しい社会に変化していくのはうれしいですね。

 

多くのボランティアとともに、優しい社会を(2021年、京都・東山ウォーキングツアーにて)

 

ほんとうに想うなら

日本に住む外国人のなかには、コロナ禍で人と会うのはPC画面の中だけだったり、感染が怖くて外に出られなかったりして、悲しくなって落ち込んでしまった人もいます。でもそういうときこそ、自分の心に立ちかえることで気持ちが楽になります。マインドフルネスの考え方は、自分のためだけじゃなくて、実はほかの人のためにもなる。自分の心が落ち着いているときは、ゆっくりものごとを考えられるから、もっと良い働きができる。それは、みんなのためになるのです。

最近は、どこかでひどいできごとがあったときに、SNSにハッシュタグをつけて投稿したり、“いいね”したりしますよね。それだけで助けた、協力したという気になってしまいがちだけれど、ほんとうに想うなら行動も起きるはず。ボランティアは、自分の時間、場合によってはお金もつかって人を助ける行為ですが、必ずしも見返りがあるわけではありません。それでもだれかを助けようとする――。

だれかを想うことは、自分を想うことでもあるのです。社会がどう成り立っているか。自分だけの利益を考えていたら、いつか崩壊します。見返りを求めてはいないけれど、だれかを助けることは、結果として自分のところに戻ってくる。あ、これは仏教的な考えかたかもしれませんね(笑)。

 

(聞き手=夏目真紀子、撮影=平野有希)

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