Sotto

Vol.32

パティシエ

芦田真理子さん

シンプルに、好きなことを追い続ける。

父を想うとき

兵庫県に生まれて、大学生の時に一人暮らしをはじめました。家ではよく焼き菓子を作っていました。栄養学を学んではいたけれど、栄養士として働くのはわたしには違うなと思って、趣味だったお菓子づくりの道に進みました。修行させてもらったのは神戸の洋菓子店。パティシエは可愛くて華やかな仕事にみえるかもしれませんが、厳しい世界です。10年間勤めてから独立して、東京に自分のお店を持つことにしました。

東京には家族や友人もいない。頼れる人がほとんどいない環境で開業したので、不安な気持ちが大きかった。開店時間になると、いまでもよく父を想います。父は明るくて、愛想もよくて、知らない人にも平気で声をかけるような人。わたしには安定した仕事に就いてほしかったみたいですが(笑)。仕事をはじめてからは忙しくてなかなか帰れなくて、亡くなる前にもっと会っておきたかったなと思います。

 

 

友人たちを想うとき

お店が休みの日は洋服を買いに行くことが多いです。昔からとにかく洋服が大好きで、いいものを長く着たい。インポートブランドの店員さんと仲良くなって、コレクションの季節にはパリやスウェーデンに連れていってもらったこともありました。有名なデザイナーさんやファッション誌の編集者さんにお会いしたり、好きなブランドを見て回ったり。好きなものを追い続けるといろんな出会いがあります。どこで誰に出会うかわからない。それがおもしろいですよね。

お店をオープンするときも友人たちにはお世話になりました。お店に飾っているお花も友人にお願いしていて、いつもすてきなお花を届けてくれます。入口に置いてある丸い寄生木(やどりぎ)はきれいなドライツリーになってくれました。とっても珍しいそうです。レジ横の焼き菓子をのせているお皿も友人のセレクト。ヴィンテージのお皿がお店の雰囲気にぴったり合って気に入っています。友人たちにはたくさん支えられています。

 

 

やってみてから、考えたらいい

いつかは大好きなファッションの世界で展示会やイベントのケータリングもできたらと夢を描きながらここまできましたが、お店を始めてからは休みがない日も多く、あっという間に2年が経ちました。「ケーキ屋さん」って可愛いイメージがありますが、わたしは可愛くはしたくなかった。外観も内装もシンプルにこだわりました。ケーキも季節のフルーツを使ったシンプルなものに。お店には近所のおじいちゃんやお子さんたちも来てくれて、みんな優しい。お店をやってみて、あらためて、人に恵まれているなあと思います。

独立するときはもちろん不安な気持ちもありましたが、同じことで悩み続けるのが嫌で、まずはやってみた。やってみてダメなら、そこでまた考えたらいい。子どものころから、父が自由にさせてくれたからこそ、いまこうやって好きなことに挑戦できているのかもしれない。ひとりでお店をやっていくのは大変なことが多い。でもお菓子をつくることが好きだから、わたしはつくり手であり続けたいと思っています。

 

(聞き手=加納沙樹、撮影=平野有希)

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