【連載】祈りと植物のものがたり Vol.3 遠い異国の花々に託す物語
今回は少し視点を広げ、海を越えた異国の地で、人々がどのような花に想いを託してきたのかを覗いてみましょう。
- 最終更新日
- 2026-04-22
白ユリが映す「希望」と、バラに込めた「愛」
前回は、日本の文化に根ざした「榊」や「菊」などの物語をご紹介しました。今回は少し視点を広げ、海を越えた異国の地で、人々がどのような花に想いを託してきたのかを覗いてみましょう。文化や気候が違えば、そこに咲く花も、花に込める意味も異なります。ですが、大切な人の安らぎを願うときに植物の力を借りるという点は、世界中どこでも同じです。
歴史と芸術が愛した「白ユリ」
西洋の歴史や芸術において、最も象徴的な役割を果たしてきた花の一つが「白いユリ」です。
白ユリは古くから、純粋さや気高さのシンボルとして愛されてきました。その姿が歴史の中で決定的な意味を持つようになったのは、多くの西洋絵画の題材となったことがきっかけです。たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチの名作「受胎告知」でも、希望を伝える使者の手には白いユリが添えられています。
こうした文化的な積み重ねを経て、白ユリは次第に「新しい始まり」や「希望」を象徴する花となっていきました。
冬の間、地中で静かにエネルギーを蓄え、春になると再び美しい花を咲かせるユリの姿。人々はその生命のサイクルに、大切な人が別の場所で新しく健やかに過ごしている、という「希望」を重ね合わせたのです。凛と咲く白いユリの姿は、時代を超えて、人々の心に勇気を与え続けています。

想いを伝える「バラ」
ユリと並んで、世界中で特別な存在なのが「バラ」です。
バラは言わずと知れた「愛」と「美」の象徴ですが、祈りや追悼の場面では、単なる華やかさ以上の意味を持ちます。かつての文化圏では、トゲのないバラは「争いのない平和な場所」の象徴とされ、故人が安らかな場所で眠れるようにという願いを込めて用いられてきました。
また、赤いバラは「情熱的な愛情」を、白いバラは「心からの尊敬」を。バラがこれほどまでに祈りの場で選ばれるのは、その豊かな色彩と花言葉によって、遺された人それぞれの想いを表現できるものだったからでしょう。
理想の庭園と「香り」の記憶
中東や砂漠の文化圏では、植物は私たちが想像する以上に貴重なものとして尊ばれてきました。
こうした地域で語り継がれる「理想の場所(楽園)」は、美しい花々が咲き乱れ、清らかな水が流れる「緑豊かな庭園」として描かれます。厳しい環境に生きる人々にとって、地上に咲く花々は、いつか辿り着く穏やかな場所の美しさを教えてくれる特別なものです。
なかでも愛されたのがバラです。その芳醇な香りは、場を清め、精神を落ち着かせる力があると信じられてきました。
お葬儀を簡素に行う文化を持つ地域でも、お墓に香りの良いバラを供える習慣があります。それは、「心地よい香りに包まれて、穏やかな時を過ごしてほしい」という想いを乗せた一つの祈りのかたちと言えるでしょう。
植物という「共通の言葉」
白ユリが語る「希望」、バラが映し出す「深い愛」や「安らぎ」。 用いる花や解釈は違えど、そこには一つの共通した願いがあります。それは、植物を捧げることで、大切な人との別れの中に救いを見出そうとする人々の願いです。
花言葉や歴史的なエピソードは、人間が長い時間をかけて花に持たせた「想い」です。だからこそ、私たちは一輪の花を供えるだけで、言葉を尽くすより自分自身の心をきれいに表現できるのでしょう。
次回は、こうした長い歴史や伝統を踏まえ、現代の私たちの暮らしの中で、どのように「花」や「緑」とともに故人を偲んでいくべきか。今の生活に馴染む「パーソナルな祈りの空間」のつくり方について提案します。






