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【連載】祈りと植物のものがたり Vol.1  なぜ、人は祈りの場に花を添えるのか?

Sottoがお届けする連載「祈りと植物のものがたり」。第1回は、この最も根源的な問いから、ものがたりを始めます。

最終更新日
2025-10-29

 

お墓参りで、そっと一輪の菊をたむける。
大切な人の写真のそばに、季節の花を飾る。

私たちは、誰に教わるともなく、ごく自然に、祈りの空間に花を添えます。それは、遠い昔から、世界中の人々が続けてきた、美しい習慣です。

けれど、あらためて「なぜ花なのだろう?」と考えてみると、その理由は一つではないことに気づかされます。慌ただしい日常の中、ふと立ち止まって、花と祈りの間にある、心安らぐ関係について考えてみませんか。

 

花を供える行為に込められた想い

人が故人や神仏など、目に見えない存在と向き合うとき、言葉だけでは伝えきれない想いが溢れることがあります。深い感謝や敬意、あるいは静かな悲しみ。そうした感情を表現するために、私たちは古くから、何か象徴的な「モノ」に想いを託してきました。花を供えるという行為は、その代表的なものです。

では、なぜ「花」がその役割を担うのに、これほどまでにふさわしいのでしょうか。
それは、単に見た目が美しいからというだけではありません。私たち人間が、長い歴史と文化の中で、花へ特別な「意味」を与え、想いを託す対象としてきたからです。

その代表的な例が、宗教における象徴的な花です。例えばキリスト教文化圏において、白いユリは聖母マリアの「純潔」や、キリストの「復活」のシンボルとされています。また、日本の仏事において白い菊が「高貴」「清浄」の象徴として、故人への深い敬意を示すために用いられるように、一部の花は、それ自体がメッセージを持つ文化的な「記号」となっているのです。

さらに、こうした「意味を託す」文化は、より身近な「花言葉」としても広く知られています。愛情、感謝、友情、そして別れの悲しみといった様々な感情をそれぞれの花に割り当て、贈る花を選ぶことで、言葉以上に繊細なメッセージを伝える。これもまた、花を特別なコミュニケーションの道具としてきた、人類の知恵と言えるでしょう。

このように、宗教的な象徴から日常的な花言葉に至るまで、花には人間が与えた幾重もの文化的な意味が蓄積されています。だからこそ、花は単なる美しい「モノ」ではなく、私たちの複雑な想いを表現できる、特別な存在となっているのです。

祈りの原点「アニミズム」の世界観

花がこれほどまでに人の心を動かすのは、私たちが植物に対して、特別な感覚を抱いているからです。その感覚のルーツは、人類の最も古い信仰の一つである「アニミズム」に見出すことができます。

アニミズムとは、山や川、岩や草木など、自然界のあらゆるものに霊魂や生命が宿ると考える世界観のことです。

科学が未発達だった古代の人々にとって、自然は恵みであると同時に、人知を超えた力を持つ畏怖の対象でした。人々は、そうした自然物の中に自分たちと同じような「意志」や「魂」が存在すると考え、対話を通じて恵みを祈り、災いを避けてもらおうとしました。これが、祈りの原点の一つです。

そのアニミズムの世界観において、植物は特に重要な存在でした。

岩や大地と違い、植物は目に見える形で変化するからです。芽吹き、葉を茂らせ、花を咲かせ、実をつけ、そして枯れていく。そのサイクルは、まさに「生命力そのもの」であり、魂や霊力の分かりやすい顕れと捉えられました。

また、植物は食料や薬、生活の道具として、人々の暮らしに直接的な恵みをもたらします。そのため、植物に宿る霊魂に感謝を捧げ、さらなる恵みを祈ることは、生きる上で非常に切実な行為でした。

私たちが現代において、神仏や故人といった「聖なる領域」に対して花を供える行為は、この古代の信仰の末裔です。「生命力に満ちた生きている植物こそ、聖なる領域への捧げものにふさわしい」という感覚が、文化的な記憶として私たちの深い部分に根付いているからなのかもしれません。

 

祈りや供養には、様々なかたちがあります。大切なのは、故人を思い、自分自身の心と静かに向き合う時間を作ること、と私たちは考えています。

 

次回は、そのアニミズムの感覚が色濃く残る、日本の祈りと植物たち、「榊(さかき)」や「樒(しきみ)」の物語を紐解いていきます。

Sotto

森羅万象を尊び、神仏に手をあわせる。 故人を偲び、ご先祖を敬う。

私たち日本人が古来から大切にしてきた「祈り」の心は、時代を経ても、脈々と受け継がれてきました。 しかし、その「祈り」を捧げる場においては、家族構成や住環境が変わってきた今、少しずつ変化が求められているようです。
『Sotto』は、現代の暮らしにそっと寄り添う仏具です。 高岡銅器ならではの重厚さはそのままに、光沢感を抑えた金属の質感に自然木のぬくもりを合わせて和室にも洋室にも合うシンプルなデザインに仕上げています。 たとえば、家族が集うリビングスペースに。 あるいは、ベッドルームの傍のチェストにしつらえても。 仏壇を置くスペースがない和室にも馴染み、さりげなくインテリアの中に溶け込みます。
『Sotto』は、あなたの祈りの心を大切に、ささやかな“ 場” を作るお手伝いをします。